GRB030329 は世界時 2003年3月29日 11時 37分 14.7秒 に HETE 衛星によって 観測されました。このガンマ線バーストは非常に明るく、HETE が捉えた バーストの中ではもちろん No.1 ですが、今まで観測されたガンマ線バースト と比較してもトップ 1% に入るバーストです。HETEに搭載されている 3つの 検出器、全てで観測しました。軟X線カメラ (SXC) により 2分角の精度で決まったバーストの座標がバースト発生後 73 分後に世界中の研究者に速報されました。
迅速で、かつ高精度な位置速報に成功したため、可視光、X線や電波での残光を
立て続けに発見できました。また、我々にとってラッキーだったのは、
日本の夜にバーストが起こったため、早期での可視光残光観測が行えたのは
日本のグループだったという事です (理化学研究所、東工大や京大)。その
初期残光はなんと 13等級という明るさでした!!
また、バーストまでの距離が測られ、距離は約18億光年 (赤方偏移 0.168)
でした。今まで
距離が測定されたガンマ線バーストで、2番目に近いものでした。近くで起こったバーストで
あったため、詳細な追観測を行う事ができ、次に述べる大発見へと結びつきました。
ヨーロッパの研究者がこのバーストの残光を南米 チリにある Very Large Telescope (VLT) を用いて、分光観測を行いました。このグループは 6回の分光観測を 1ヶ月にもわたり 行いました。下の図がその結果です。4月3日頃 (黄色) に取られたスペクトルはガンマ線バースト の残光で見られる典型的な形 (構造のない、ノッペリとしたスペクトル) をしています。 しかし、日にちがたつにつれて、構造をもったスペクトルが現われ ている事が分かります。 この構造を持ったスペクトルは水素やヘリウムの外層失ってしまった 星が最後に起こす大爆発 (Ic 型超新星爆発) と一致します。つまり、 ガンマ線バーストの 残光から初めて、超新星爆発との関連を示す確実な証拠を得ました。ガンマ線バーストの中心天体 に関する長年の謎がついに解けたのです!!
ガンマ線バーストの残光を発見した BeppoSAX 衛星の観測によると、
約 90% のバーストでX線での残光が発見されたのに対して、約 50%
のバーストにしか、可視光での残光が見つ
かっていません。このように可視光で残光が見つからなかったガンマ線バーストを
Optical dark GRB (日本語でなんと言えばいいやら) と呼んでいます。X線での残光は伴うのに、
可視光では伴わないガンマ線バーストとはどういうものなのでしょうか。
HETE は、この Optical dark GRB についてのひとつの可能性を示しました。そのきっかけと
なったバーストは 2002年12月11日に起こったイベント (GRB021211) です。
下図がバースト本体の光度曲線
です。このバーストは典型的なガンマ線バーストよりも放射エネルギーが低いものでした
(エネルギーの低いガンマ線バーストに関しては次の節で説明します)。
可視光残光を伴わないバーストって本当にあるの?
HETE が観測した GRB021211 の様々なエネルギー帯での光度曲線。
GRB021211 はバースト発生 22秒後、14分角の精度で位置の速報に成功
しました。
可視光での残光観測に、アメリカ ロスアラモス国立研究所のロボット望遠鏡
RAPTOR
が、なんと バースト発生 90秒後に成功しました。不思議なことに、
GRB021211 の可視光残光は典型的なガンマ線バーストの可視光残光よりも
急激な減光を
示し、かつ全体的に暗いものでした (下図)。つまり、HETE による迅速で、かつ正確な
位置速報がなければ、このバーストは Optical dark GRB となっていた事でしょう。間違いない!!
太い線 (ぬりつぶしたマーク) で書かれたものが GRB021211の可視光残光の光度曲線。
それ以外のものが他のバーストの可視光残光の光度曲線。ガンマ線バーストの残光探査に
使われる望遠鏡の典型的な限界等級が 18-20等級位であるため、バースト発生 2.4
時間後 (0.1 日後) に観測を開始していたら、GRB021211 の残光は発見できなかった
であろう (GRB021211 の残光は図から 0.1 日後で 20等級位)。 (Fox et al. ApJ,
586, L5)
典型的なガンマ線バーストに比べて暗いものでしたが、可視光残光は確かに
存在していたのです。
この発見はガンマ線バースト残光の放射機構を解明する上で非常に興味深い結果です。
BeppoSAX 衛星の観測で Optical dark GRB と言われているバーストの中には、
位置速報に時間がかかり、可視光での残光を同定できなかった例を多く含んでいるもの
と思われます。Optical "dark" GRB というのが本質ではなく、
Optical "dim" GRB (可視光残光が"暗い"という意味) が残光の放射を考える上での本質なのかもしれません。
速く、正確な位置速報はガンマ線バースト研究にとって不可欠なものとなって来ています。
ガンマ線バーストなのに、X線領域で明るいバーストというが今、にわかに
注目を集めています。これらのバーストは X線フラッシュとか、X-ray rich GRB
(X線過剰ガンマ線バースト) などと呼ばれています。日本の3番目の X線天文衛星 ぎんがに搭載されていた、
ガンマ線バースト検出器 (GBD) で初めて詳細な研究がスタートし、BeppoSAX 衛星でも同様な
性質を示すバーストが報告されています。
下図が HETE で 2002 年 9月 3日に観測した X線フラッシュ
(GRB020903) の光度曲線です。X線領域 である
2-10 keV 付近で放射が卓越している事が分かります
(典型的なガンマ線バーストは 150 keV
付近で最も明るく輝きます)。銀河面から離れている事、光度曲線の形、そして、放射スペクトル
などから、低質量X線連星でみられる X線バーストとは起源が異なっていると考えられます。
GRB020903 での大きな発見は残光が見つかった事、
そして、母銀河の観測から距離が決まった事です。
カリフォルニア工科大学のグループはパロマー山にある 5 m の望遠鏡、さらには、ハッブル宇宙
望遠鏡も用いて残光の観測を行いました (なんと言う執念。頭が下がります;下図)。
バーストまでの距離としては、
赤方偏移 0.25 で、
典型的なガンマ線バーストの赤方偏移 1 と比べると比較的近いものでした (それでも十分遠方ですが)。
また、残光を伴っていたという事からガンマ線バーストと同じような機構で残光放射が作られている
と考えられます。
"ガンマ"線バーストなのに、"X線"で明るいガンマ線バースト?
HETE が観測した GRB020903 の光度曲線。2-10 keV という X線領域でのみ
信号が見えています。10 keV 以上での放射は見られません。
パロマー山 5 m 望遠鏡での画像 (左図)。"HST/ASC" と左上に書かれているのが、
ハッブル宇宙望遠鏡の画像 "OT" と書かれている部分が GRB020903 の残光
(Soderberg et al., ApJ 投稿 (astro-ph/0311050))
また、HETE が捉えた数十例の X線フラッシュの性質を調べて見ますと、
典型的なガンマ線バーストとの類似点が多く見つかりました。違いは「X線で明るい」くらいです。
また、X線とガンマ線との強度比
の分布を作ってみると、X線フラッシュからガンマ線バーストまで単一の分布となります。
これらの観測結果は、X線フラッシュがガンマ線バーストと同一起源を持つ現象
である事を強く示唆して
います。HETE による X線フラッシュの詳細な解析結果により、現在は、
X線フラッシュからガンマ線バーストまでを統一的に理解しようとする試みが主流です。
坂本 貴紀 (sakamoto@hp.phys.titech.ac.jp) |