ガンマ線バーストで宇宙の歴史を探る

MITSuME望遠鏡
−Multicolor Imaging Telescopes for Survey and Monstrous Explosions−


左:明野50cm可視光望遠鏡、中:岡山50cm可視光望遠鏡、右:岡山広視野赤外カメラ


宇宙最大の爆発現象・ガンマ線バースト

宇宙のある一点から突如として多量のガンマ線が数100秒程度の短時間振り注ぐ、 ガンマ線バーストと呼ばれる現象があります。発見は1973年、冷戦時代に アメリカがソ連の核実験を監視する目的で打ち上げられた人工衛星によって 偶然捉えられたものです。この現象の特徴とも言えますが、ガンマ線バーストは ”いつ発生するのか”、”どこで発生するのか”が全く分からず、 ”継続時間が非常に短い”ために詳細は謎に包まれていました。

しかし1997年、研究は転機を迎えます。 ガンマ線バーストが観測された同じ場所からX線、可視光、赤外、電波で 数日の間輝き続きける天体が発見されました。 この天体はガンマ線バーストの残り火という意味で残光と呼ばれています。 残光発見を足掛かりに研究は飛躍的に進み、現在では ガンマ線バーストは100億光年かなたで発生する、 宇宙最大の爆発現象として知られています。

それでは、ガンマ線バーストの起源は一体何なのでしょうか?研究者たちは 大きくわけて2種類の起源を考えています。ガンマ線バーストの 継続時間が短いものについては中性子星・ブラックホール同士の 衝突によるもの。 そして継続時間が長いものは大質量星がその一生の最後に引き起こす 超新星爆発(左の図/参照 http://chandra.harvard.edu)によるものです。


このとき、爆発は左の図のように非球対象、ジェット状で おこります。この爆発により、物質は幾つかのシェルになって放たれ、 光速の99%以上もの速さまで加速されます。 そしてこのシェル同士が衝突することによりガンマ線バースト本体が、 またシェルと星間物質との衝突により残光が放出されると考えられています。 なお、ジェットがたまたま地球の方向を向いていたときにだけ、 これらの光・ガンマ線バーストが観測されるのです。

ガンマ線バーストと初期宇宙

我々の宇宙はどのようにして生まれ進化してきたでしょうか? これを調べるには"より遠い宇宙"を観測すれば良いはずです。 光は有限の速度を持っているため、遠方の天体からやってくる光から、 原始宇宙の姿を知ることが出来ます。国立天文台のすばるをはじめとする 10m級大望遠鏡が活躍する現在、最遠方記録は日々塗り替えられています。 それでも、発見された天体の赤方偏移zは高々10 以下であり、 宇宙誕生から10億年よりも前の世界は、まだ誰も見たことのない領域なのです。

遠方宇宙を観測する上での最大の問題はやはり"暗い"ということです。 そのために、これまで遠方宇宙観測では通常の銀河よりも明るい クェーサーなどが光源として用いられて来ました。ところで、 今やガンマ線バーストも非常に明るく遠方で起こっている爆発で あることが知られています。瞬間的にはクェーサーの1万倍以上の 明るさになるガンマ線バーストを プローブとすれば、中規模の観測装置を用いてこれまでよりも 更に昔の宇宙を調べることが可能となるはずです。



MITSuME望遠鏡とは

MITSuME望遠鏡はガンマ線バースト残光追跡観測を行うべく、 東大宇宙線研明野観測所 国立天文台岡山天体物理観測所に 設置された可視50センチ望遠鏡と、岡山天体物理観測所の 赤外91cm望遠鏡の3台の総称です。 また、望遠鏡が3台あるというだけではなく、両50cm望遠鏡には それぞれ3色同時撮像機能があることからも,「3つの目」という 意味をこめてMITSuME望遠鏡と命名しました。なお、MITSuMEは Multicolor Imaging Telescopes for Survey and Monstrous Explosionsの 頭文字となっています。上の写真に写っている望遠鏡が私達のMITSuME望遠鏡です。

河合研ではこの3台のうち、主に左の写真の望遠鏡、東大宇宙線研明野観測所にある 50センチ望遠鏡の運営に当っています。 運営といっても普段この観測所は無人であり、 東工大からの遠隔操作で観測を行っています。 この望遠鏡は 山梨県北杜市明野町にあり、 東工大からは直線距離にしておよそ100km、車で3時間程度の場所にあります。また、この望遠鏡で撮像した星雲などの画像はこちらのGALLERYにあります。



ガンマ線バーストを観測するために

自動追観測〜ガンマ線バースト発生直後の残光を捉える

観測衛星 Swift HETE-2はガンマ線バーストを検出すると その位置情報などを地上に送り、この情報は GCNと呼ばれるインターネットを利用した情報システムを介して世界中に送信されます。 MITSuME望遠鏡はその情報を受け取るとすぐさま、 望遠鏡をそちらの方向へ自動的に向け、そして自動的に観測を開始します。 こうして、時間とともに急激に減光するガンマ線バーストの残光を 発生直後から観測することが可能となるのです。

自動解析〜ガンマ線バースト発生位置を早く、正確に知る

得られたデータはそのままの状態では役に立ちません。まず、 WCSと呼ばれる天球座標を書き込む解析をする必要があります。そこで私達は 取得データに対して自動解析を行うシステムを開発し、即座に 有用なデータを得ることが出来るようになりました。 実は観測衛星からの位置情報は光学観測よりも随分エラーが大きく、 すばる望遠鏡など視野の小さい地上の大型望遠鏡は残光観測を行えません。 そこで、私達の正確な位置情報を世界中に再び流すことにより、 大望遠鏡による残光観測をサポートすることが出来るのです。

この自動追観測、自動解析、両システムを模式的に表したものが右の図です。

3色同時撮像〜ガンマ線バースト発生源までの距離を知る

MITSuME望遠鏡の「3つの目」である3バンド同時撮像カメラは ガンマ線バースト観測のために特別に作られたものです。 この3台のカメラにはそれぞれg'バンド(480nm)、Rバンド(650nm)、 Iバンド(800nm)という特定の波長のみを通すフィルターが取り付けられていて、 各バンドでガンマ線バーストの残光を比較すると明るさに違いが 現れることがあります。100億光年かなたから発せられた光は 波長の短い成分が吸収されていることが知られており、この性質を利用して ガンマ線バーストまでの距離を推定します。右の写真は明野で使用している3台のカメラです。



MITSuME望遠鏡が捉えたガンマ線バースト

明野MITSuME望遠鏡が捉えたGRB061121

明野MITSuME望遠鏡はGRB061121の検出に成功しました。 GRB061121は2006年11月22日0時22分29秒, Swift衛星によって検知され、 続く地上光学観測(no filter)で発生80秒後に 14.9等という明るい残光が観測されました。 またz=1.314、96億光年かなたからのガンマ線バーストであったことが 報告されています。

私達はGRB061121を発生およそ2時間後の2:36:34から 日の出近く5:38:39までの3時間観測をしました。 観測開始時の等級はすでに報告されていた等級よりずっと減光していて、 g'=19.1 +/- 0.2, Rc=18.9 +/- 0.1、Ic=18.2 +/- 0.1で、 それぞれ時間べき指数〜-1に従って更に減光するのが観測されました。 その時に得られた画像がこちらです。普段の同じ領域(DSS)と比較して、 3バンドともGRB061121が写っていることが分かります。

岡山MITSuME望遠鏡が捉えたGRB060115

こちらに詳しく紹介されています。
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初版:2006年12月27日、最終更新:2008年10月18日
中嶋 英也 連絡先 nakajima.h.aa[at]m.titech.ac.jp  メールを下さる方は[at]を@にかえて下さい。