APDで得られた最新成果:速報!

(1) APDを用いた低エネルギーX線、γ線のシンチレーション検出で エネルギー分解能の世界記録を達成しました! いずれも、測定は 5mm 角 CsI シンチレータ + APDで行なっています。以下のレフェリーコメントからも、 データの素晴らしさがお分かり頂けることでしょう。この結果は 五十川 et al. 2003, NIM-A, 515 に掲載されています。

REVIEWER COMMENTS:
I am glad that I can recommend the paper for publication in Nuclear Instruments and Methods A. The new paper brings us important results of the basic tests of the newest APDs and their application in scintillation detection and spectrometry of low energy X-rays and gamma-rays. Results presented are very good showing a new area of APD applications!

今までの世界記録: 8.9 % (@122 keV) → 我々の 新記録: 7.4 %

今までの世界記録: 12.7 % (@59.5 keV) → 我々の 新記録: 9.4 %
    APDで得られた、122 keV(左) と 59.5 keV(右)のγ線スペクトル。 青で示したのは、従来のフォトダイオードを用いた場合のスペクトル。



(2) APDと大型シンチレータを組合せて、コンパクトγ線カメラを製作しました。 今回はプロトモデルとして 5x5cmサイズのシンチレータの後ろに APD(5mm角) 4つを配置し、それぞれのAPDから出る信号の大きさからγ線の入射位置を求めました。 非常に簡略化された検出器にも拘らず、約 5mm の精度で画像を再生することに 成功しました。これを応用し、KEK-PF の放射光施設で偏光X線の撮像にも 成功しましたので、以下に示します。将来的には、(3) で開発しているAPD array と 組合せて、約 1mm の精度をもつγ線カメラを製作していくつもりで、すでに 開発に着手しています。これらの結果は 片岡 et al. 2004, SPIE 並びに 2005 NIM-A に掲載されています。
APD 4chを用いたγ線カメラの位置分解能(左)と、撮像イメージ(右)。
APDγ線カメラを用いた偏光撮像。(上)撮像の原理、(下)取得した画像


(3) 従来にない、新しいAPD素子の開発を行いました。 我々は、浜松ホトニクス社と共同で様々なAPD素子の開発を進めています。 たとえば、従来市販されている APDの 4倍以上の面積を持つ 1cm角APDを開発し、 PMT との性能比較を行いました。APDはPMT よりも量子効率が圧到的に高いため、 2.5cm 直径のPMTと 1cm 角APDがほぼ等価な集光力をもちます。いかにAPD が小さく、コンパクトな検出器かお別りいただけると思います。さらに、1素子が 2mm角の APD を 4x8 個並べた "APD array" や透過型X線検出用APD、NeXT塔載用 APD など、あらゆるAPD素子の開発に着手しております。これらの試験結果は、 五十川 et al. 2004, NIM-A, 片岡 et al. 2005, NIM-A などに掲載されます。

(左)1cmAPDとPMTの大きさ比較 (中)32ch APD array (右)透過型X線検出用APD


(4) APDの放射線耐性を調べ、宇宙利用が可能であることを実証しました。 APD は新しい半導体検出器であるため、その放射線耐性は殆ど調べられていませんでした。通常のシリコン検出器では、強い放射線を浴びることによって素子内部の構造が ダメージを受け、暗電流などが増加することが知られています。さらに、APD の場合は 内部増幅機能をもちますから、場合によっては降伏電圧 (break-down)が下がり、 素子としての利用が難しくなるかもしれません。我々は、阪大 RCNP の AVF サイクロトロンをお借りして、CUTE1.7 が 数年間に浴びるのと同量の陽子線を 照射しました。結果、暗電流は他のシリコン素子同様に増加しますが、増幅率の 変動は殆どおこらず、APDが宇宙利用に十分耐える素子であることがわかりました。

CUTE1.7軌道で予想される陽子線量を照射した場合の(左)APDの増幅率変化と (右)スペクトルの変化


(5) APDのゲイン自動制御に成功しました。 APDの唯一の欠点と言えるのが、「増幅率(ゲイン)の温度依存」です。通常、PMT では 温度によってゲインが 0.3%/deg 程度の変化率ですが、APD の場合は 3%/deg 程度も変化します。恒温槽など、温度が一定の環境では問題ないのですが、 たとえば90分おきに気温が20度も変る小型衛星の軌道上では、同じ電圧をかけていても スペクトルが大きく歪むことになります。これを防ぐため、我々はリアルタイムで APDの印加電圧を温度の関数として調節し、自動的にゲインを一定に制御する フィーードバック機構を開発しました。APD に対する、このような active な制御は 世界的に見ても初めての成果です。例えば 東工大衛星 CUTE1.7 を想定した軌道 で温度制御を行った場合のスペクトルを以下に示します。温度は -20 度から 0度まで 激しく変化しているにもかかわらず、増幅率は温度一定の場合と同程度に制御 されていることが分かります。この結果は、 五十川 et al. 2005, NIM-A(投稿準備中)に掲載されます。

(左)CUTE1.7軌道で予想される温度変化 (右)増幅率の自己制御で得られたスペクトル