NeXT 衛星への応用

NeXT 衛星の構成

NeXT 衛星は Astro-E2 衛星に続く日本で6番目の X線天文衛星 で、2011 年頃の打ち上げを目指しています。ミッションの第一目的は、 宇宙における高エネルギー粒子、とくに宇宙線の加速機構を調べ、 知られざる非熱的世界の極限に迫ることです。 このような"非熱的"な宇宙は、 熱的放射の影響が次第に薄れていく硬X線で初めて姿を表すと考えられます。 しかしながら、従来の衛星では 10 keVを超える硬X線の観測が難しく、 未だ精度の良い観測は未だ十分に行われていません。 NeXT 衛星は80 keVまでの硬X線領域において、世界で初めて撮像観測を 行うとともに、数100 keV のγ線領を過去にない精度で観測することを 目標としています。

NeXT衛星は総重量 1700 kg(観測器は 860 kg)の、世界的に見て中型のX線 天文衛星です。開発には、日本のX線天文グループの多くのメンバーが 参加しています。塔載検出器は (1) 広帯域撮像検出器 (Widebandf X-ray Imager: WXI)、(2) 軟γ線検出器(Soft Gamma-ray Detector: SGD)、 (3) 軟X線分光器 (Soft X-ray Spectrometer: SXS) という、3種類の検出器 が塔載されます。このうち、WXIは多相膜スーパーミラーと組合せた撮像 検出器で、0.5-20 keV の低エネルギー側を SXI (Soft X-ray Imager)、 8-80 keV の高エネルギー側を HXI (Hard X-ray Imager)でカバーします。 これにより、0.5-80 keVの広い領域で初めて撮像観測が可能になるのです。 一方で、SGDは Siストリップ検出器とCdTe 検出器を内蔵した狭視野井戸型 phoswich 検出器で、500 keVまでのエネルギーにおける高感度な観測を 可能にします。

(左)SGD検出器の概観 (右)APD を用いた読み出し方法と、Astro-E衛星HXDとの 比較
NeXT衛星は、あらゆるX線波長で今までよりも一桁以上高い感度の観測を目標と します。この高感度を実現するためには、軌道上におけるバックグラウンドを 効率よく除去する新たな検出器が必要です。東工大で開発している APD は、 NeXT衛星の HXI, SGDでともに用いられることが検討されており、我々は プロトタイプ APDを用いた評価試験を行っています。 それでは、APDを使うと 具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか? APD は非常にコンパクトで 形状も自在に換えられるため、シールド部の検出器に直接貼り付けて信号を 読み出すことが可能です。従来用いてきた PMT は容積が大きいためこのような 読み出しが難しく、必然的にバックグラウンドの除去性能が低下してしまします。 どのくらいのエネルギーまで、バックグラウンドとなるイベントを除去できるか という指標を「エネルギー閾値」と呼び、この値が小さい検出器ほど感度の 高い観測が可能です。NeXT に塔載するSGDでは、閾値を従来の100 keV程度から 30 keVまで下げることが可能になります。
APDを用いたシールド検出器(BGO)の読み出し