TokyoTechPhysics す ばる望遠鏡、宇宙最遠の巨大爆発をとらえる Subaru

目次

  1. 概要
  2. 解説
  3. 画像
  4. 関連リンク
  5. チー ム 
  6. 問合せ先

概要

東京工業大学、国立天文台などからなる研究チーム"すばるGRBチーム"(注1)は、すばる望遠鏡に取り付けた微光天体分光撮像装置FOCAS を用いて、宇宙の最も遠方で発生した巨大爆発現象の距離を測ることに成功しました。 この爆発現象はガンマ線バーストと呼ばれ、大質量星が崩壊してブラックホールが作られるときに発生すると考えられています。9月4日に発生したガンマ線 バーストをすばる望遠鏡によって観測した結果、この爆発までの距離は 128億光年と、今までの記録(123億光年)を大幅に破る最遠の爆発である ことが明らかになりました。この距離は人類がこれまでに発見した最も遠い天体(幼少期の銀河)の記録に迫るもので、ガンマ線バーストを 使ってさらに遠方の宇宙を探る可能性を開くものです。

(注1)研究チーム代表者:河合誠之 東京工業大学大学院理工学研究科(基礎物理学専攻)教授。
他の参加研究者の所属機関は、国立天文台、青山学院大学、京都大学、理化学研究所、東京大学、広島大学、カリフォルニア大。
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解説

ガンマ線バーストとは

ガンマ線バーストとは、宇宙の一点から短時間(典型的には数秒間ないし数十秒間)の強力なガンマ線・X線がやってくる現象で、1960年代に核実験査察衛 星によって偶然に発見されましたが、その後30年ほどその正体は謎とされてきました。近年の研究によって、数億光年ないし百数十億光年の遠方で発生す る、宇宙最大の爆発現象であることがわかってきました。その起源は完全には解明されていませんが、さまざまな証拠から、太陽の数十倍以上の質量をもつ 巨大な星が、その一生を終えてつぶれてブラックホールになるときに、ほぼ光速のジェットを放射し、そのジェットが地球の方向を向いていたときにガンマ線 バーストとして観測されると考えられています。

ガンマ線やX線は大気に吸収されるため、ガンマ線バーストそのものは、人工衛星を用いないと観測できませんが、爆発の後に、急速に減光する「残光」(アフ ターグロー」を残します。この残光を地上の望遠鏡や、高感度の宇宙望遠鏡で観測することによって、バースト源の距離、環境、バーストの発生機構などを調べ ることができるのです。

2005年9月4日のガンマ線バースト 

このガンマ線バーストGRB050904は、2005年9月4日10時51分(日本時間)に米国のスイフト衛星(関連リ ンク参照)によって検出され、 その正確な位置が全世界のガンマ線バースト研究者に伝えられました。 ガンマ線の爆発そのものは約500秒で消えましたが、その後に、 次第に弱くなる残光が各国の望遠鏡で観測されました。 たとえば、東京大学がハワイ大学の協力を得てマウイ島に設置した口径2メートルのマグナム望遠鏡(関連リンク参照) によってもカラー撮像され、このガンマ線バースト残光が極めて遠方にあることを示唆する結果を得ていました。

すばる望遠鏡による観測

 研究チームは、2005年9月6日の晩(ハワイ時間、日本時間では9月7日)に、 すばる望遠鏡によるこの残光の観測を行いました。望遠鏡にとりつけた微光天体撮像分光装置(FOCAS)という装置を用い、4時間の露光によって可視光か ら近赤外線領域にわたる 高品質のスペクトル(波長別の光の強さ)を得て、正確な距離を測ることができました。

距離を測る方法

 宇宙は膨脹しているため、遠くの天体ほど、高速に遠ざかっていくように見 えます。ドップラー効果によって、速く遠ざかるものほど、光の波長が伸び て観測されます。近づいてくる救急車のサイレンが高く聞え、通りすぎると 音が低くなる(= 波長が長くなる)ことと同じ原理です。 目に見える光(可視光)の中でもっとも波長が長いのは赤い光ですので、遠くの天体は もともとより赤っぽく見えることになります。このように光の波長が伸びることを赤方偏移といいます。

 太陽の光をプリズムに通して虹の七色に分けるように、ガンマ線バーストの 残光を波長によって分けて観測する(分光する)と、ガンマ線バースト源のま わりの物質中の原子に固有の波長の光が吸収されていることがわかります。
  今回観測されたデータでは、水素とケイ素によって吸収されている部分の波長の伸びから、ガンマ線バースト源が遠ざかる速度がわかり、 宇宙膨脹の関係を使って距離が128億光年であるわかりました。(画像と解説図を参照

最遠記録更新!

 今回観測されたガンマ線バーストの地球からの距離は128億光年でした。これまでに測られたガンマ線バーストの距離の記録は、デンマークのグループ が南米チリにある大望遠鏡を用いて2000年に打ち立てた123億光年でした。あまり違わないように見えますが、宇 宙の始まり(ビッグバン)からの時間でみると、以前の最遠記録では14億年後、 今回のは 9 億年後となり、だいぶ違います。 また、人類の観測したもっとも遠方の天体は、すばる望遠鏡によって発見さ れた若い銀河です(関連リンク参照) が、これと比べても約5000万光年近いだけです。

この観測の意義

 これほど遠い宇宙でガンマ線バーストが観測されたことによって、ガンマ線バースト が以下のような太古の宇宙をさぐる重要な手がかりを提供することが実証されました。

(1) 宇宙の一番星の直接観測の可能性
 現代の天文学の最も重要な課題のひとつに、最初の星や銀河はいった い、い つ生まれたのだろうか、という問いがあります。ガンマ線バーストが起きた ということは、ガンマ線バーストのもととなった、大質量星がその時代に生まれていたことを示しています。今回の観測は、銀河がかろうじて観 測可能な太古の宇宙にすでに存在していたそのような星を直接観測できることを証明しました。今後、さらに、遠方のガンマ線バーストが観測されて、宇宙で 最初に作られた星が死ぬところを見つけられるかもしれません。

(2) 太古の宇宙を照らす灯台
 また、ガンマ線バーストは、非常に明るいので、宇宙遠方の光源として、そ のまわりの様子を調べるのに使えます。上に説明した、視線上にあってガンマ線バースト残光を吸収する物質の組成や量を、距離(すなわち時代)に沿って調べ ることができました。 幼少期からの宇宙のなりたちを探る重要な手がかりです。
 太古の宇宙を観測するには、遠方銀河の光や、クェーサーと呼ばれる超巨大ブラックホール周辺で発生する光が用いられてきましたが、ガンマ線バーストとそ の残光はそれらより遥かに明るく、宇宙の端まで届きますので、宇宙最遠記録がガンマ線バーストによって塗り替えられるのも時間の問題でしょう。

(3) 宇宙の星生成史
 さらに、人工衛星によって検出されるガンマ線バーストのなかでは、残光が 見つからなかったり、残光が見えても暗すぎて距離がわからないものの方が 数が多いのですが、距離が測られたガンマ線バーストとの共通した性質に着目して、距離を推測できるようになります。ガンマ線バーストは大質量星の死で発生 すると考えられていますし、ガンマ線バースト源となるような大質量星の寿命は数百万年ないし一千万年程度と短いので、ガンマ線 バーストを用いて、宇宙のどの時代でどれだけ星が生まれたかを調べられるようになります。

このガンマ線バーストは、どの星座にありますか?日本から見えますか?

うお座の中にあります。二匹の魚の頭の中間あたりです。 ただし、天文学者は、観測対象がどの星座にあるのか普通は気にしません。 天の経度と緯度で場所を指定するのが普通です。 今回のガンマ線バーストの残光は夜の8時ごろに東の空から上ってきて、夜半過ぎには高いところまで上がりますが、 既にとても暗くなっているので、観測するには大きな望遠鏡と赤外線カメラが必要です。 日本国内にある望遠鏡では、もう無理でしょう。

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す ばる望遠鏡によって得られた GRB050904の残光の画像

2-band Image
(図の説明) すばる望遠鏡によって撮影された128億年の遠方の大爆発 GRB050904の残光。 左上の画像(青い枠)は9000オングストロームより短い波長の光(Icバンド)での画像のため、遠方からの光が銀河間の水素によって吸収されて見えない が、 右上の図(赤い枠)ではそれより長い波長の光(z'バンド)を使って撮像したので残光が見えている(赤い円の中)。今回の観測では、波長別の光の強さ(ス ペクトル)を精密に計測して、水素やケイ素によって光が吸収されている波長を正確に測った。
[上の解説図のPDFファイル (203kB)]
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関連リンク

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す ばるGRBチーム 構成メンバー

河合 誠之      (東京工業大学 理工学研究科 教授) (代表)
小杉 城治    (自然科学研究機構 国立天文台 助教授)
山田 亨     (自然科学研究機構 国立天文台 助教授)
服部 尭      (自然科学研究機構 国立天文台 研究員)
青木 賢太郎   (自然科学研究機構 国立天文台 研究員)
関口 和寛     (自然科学研究機構 国立天文台 助教授)
寺田 宏      (自然科学研究機構 国立天文台 研究員)
古澤 久徳    (自然科学研究機構 国立天文台 研究員)
家 正則     (自然科学研究機構 国立天文台 教授)
水本 好彦    (自然科学研究機構 国立天文台 教授)
小宮山 裕    (自然科学研究機構 国立天文台 上級研究員)
能丸 淳一     (自然科学研究機構 国立天文台 助教授)
小笠原 隆亮   (自然科学研究機構 国立天文台 教授)
白崎 裕治     (自然科学研究機構 国立天文台 上級研究員)
青木 和光     (自然科学研究機構 国立天文台 主任研究員)
渡部 潤一     (自然科学研究機構 国立天文台 助教授) 
高田 唯史     (自然科学研究機構 国立天文台 助教授) 
吉田 篤正    (青山学院大学 理工学部 助教授)
戸谷 友則    (京都大学 理学研究科 助教授)
太田 耕司    (京都大学 理学研究科 助教授)
玉川 徹     (独立行政法人 理化学研究所 研究員)
鈴木 素子    (独立行政法人 理化学研究所 協力研究員)
小林 尚人    (東京大学 理学系研究科  助教授)
野本 憲一    (東京大学 理学系研究科 教授)
佐藤 理江    (東京工業大学 大学院生)
谷津 陽一    (東京工業大学 大学院生)
川端 弘治    (広島大学 宇宙科学センター 助手)
K. Hurley     (カリフォルニア大学バークレイ 宇宙科学研究所)

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問い合わせ先:

発表内容に関して

      河合 誠之  東京工業大学 大学院理工学研究科基礎物理学専攻
        E-mail: nkawai @ phys.titech.ac.jp
 
 渡部 潤一  国立天文台 天文情報センター 広報室
       E-mail: jun.watanabe @ nao.ac.jp

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