放射線測定
放射線測定
趣旨:衛星用放射線検出器開発で身につけた技術を使って身の回りを測定してみる。
1.大気中の放射線測定 (2011,3,15~3,20)
福島原発の外壁損壊後、研究室のガイガーで測定を行ったところ、なんと1μSv/hに近い数字(左上:ただし、このGMカウンタは低線量域での測定精度がいまいちなため、実際にはもっと低い値だったと考えられる)。本来、原発周辺は安全のために常時測定を行っているはずなのに、なぜか数時間に一度しかデータが公表されていなかったため、自分で測定することにした。
「とにかく感度が欲しい」と考え、ガンマ線検出器として NaI(Tl)シンチレータ(2インチΦx20mm) + 光電子増倍管 を使い、出力を分配してカウンタとADCに入力し、フラックスとスペクトルを同時に取得しようと試みた。カウント値は通常ビジュアルスケーラで可視化するのだが、知人から「リアルタイムのデータを是非とも見たい」とリクエストされたため、敢えてオシロスコープのパルスカウント機能を使って、1秒間の計数を記録することにした。(設置に約2時間。このデータは、そのまま外部のサーバへ転送され、5分毎にグラフ化。知人の不眠の努力により、翌朝には1μSv相当のレートを超えると登録メンバーの携帯に警報メールが届くという大変素晴らしいサービスも提供された。また、時系列プロットも便利で、お出かけ前のチェックに重宝した。ちなみに、教科書を信じれば、この程度の外部被爆は健康に影響しないと思われる。)
ある程度落ち着いてから測定したスペクトルがこちら。緑は較正線源として用いたCs-137,黒が室外での測定、赤が室内での測定(窓から2m離れて、暗箱中で測定)。やはり、スペクトル測定は面白い!! I-131の366 keVや、30 keV付近の特性X線がはっきりと確認できる。室内でも若干見えているのは、測定のために窓をずっと開けていたためか。。当然、平常時にはこんなものは見えません(これじゃ、バックグラウンドが高すぎて実験にならない)。イベントレートに関しては、バックグラウンドレートが150 counts/s程度であったのに対して、3月15日の17時には最大で3000 counts/s以上を記録。東京における平常時のdose rateは0.05 μSv/hと言われているので、最も酷かった時で1μSv/h以上になっていたものと推測される。この後、4月頃まで測定を継続したものの、降雨直後の急激な線量率増加を除けば、基本的にはI-131の崩壊時定数に沿って放射線が減少していたため、新たな放射能漏洩は無いと解釈して実験を終了した。
左下の地球にプロットしたのが、行き帰りの航路である。往路は残念なことに窓の向きが悪かったのか、かなり北上してからでないとGPSが現在位置を決定できなかったため、アリューシャン列島上空を通過後のコースしか記録できていないが、最も北上した地点でだいたい北緯50°を飛行している。Cuteの放射線マップと比較すると、オーロラ帯の南端をかすめる程度であろうか。一方、復路は北緯30〜40°を通過するコース。上空680kmを飛行するCuteではほとんど荷電粒子を検出できていない空域を飛行したことになる。
つぎに測定結果。右下のグラフは積算線量の時間変化を表したものである。帰りに関しては、映画を3本連続して見ていたため、残念ながら途中経過を取得できていないが、積算値は往きと帰りとで明らかに異なっている事が分かる。一次関数でフィットして求めた線量率は
•往路: 1.30 ± 0.03 μSv/h
•復路: 1.07 ± 0.05 μSv/h
となった。明らかに北回り航路の方が積算線量が大きいことが分かる(といっても期待した程ではなかった)。Cuteの測定によると、オーロラ帯の幅は細いところで200 km程度かないことが分かっており、今回の飛行では僅かな影響しか受けなかったものと推測される(シベリア上空を飛ぶヨーロッパ航路はかなり期待できそう??)。さらに、注意しなければいけないのは、今回使用した線量計がガンマ線専用である点である。一般に等価線量を計算する場合には放射線の種類・被爆する部位等を考慮した係数を掛ける。陽子だと5倍、中性子だと5〜20倍になるので、実際の線量率は5μSv/h以上となると考えて良さそうである。
余談: ちなみに、電源を落とし忘れたまま、ポケット線量計をX線手荷物検査装置に通してしまいましたが、1回あたりの被爆は高々2~3μSvでした。検査装置に頭から入っても被爆量はレントゲン写真と同じ程度だと推測される。
2.飛行機における被爆
ジェット旅客機が飛行する上空10km付近は1次宇宙線が大気と相互作用しμ粒子をつくっている現場である。当然、放射線はバリバリ飛んでいるハズなのだが痛くも痒くもないので分からない。業界内では「放射線業務従事者がガラスバッジを持って飛行機に乗ると、始末書ものの大騒ぎになる」という噂がまことしやかに囁かれているが、本当なのだろうか?? 自分で測定してみることにした。
さて、今回の測定に用いたのは一般の旅行者が持っていても誰にも怪しまれないであろう小型のデジタル式ポケット線量計。起きている間は大体30分おきにデータを取得した。また、航行中の座標を調べる為、自転車用のGPS受信機を使って、現在位置を記録(座席の位置の関係で、一部区間で測定できず)。この意図は、我々の開発した超小型衛星Cute-1.7+APD2号機の測定でも明らかに観測されている「オーロラ帯」(右図の極冠付近にある荷電粒子の溜まり場)の荷電粒子が、上空10km程度まで降りてくるのかどうかを確認したかったためである。
左の地球にプロットしたのが、行き帰りの航路である。往路は残念なことに窓の向きが悪かったのか、かなり北上してからでないとGPSが現在位置を決定できなかったため、アリューシャン列島上空を通過後のコースしか記録できていないが、最も北上した地点でだいたい北緯50°を飛行している。Cuteの放射線マップと比較すると、オーロラ帯の南端をかすめる程度であろうか。一方、復路は北緯30〜40°を通過するコース。上空680kmを飛行するCuteではほとんど荷電粒子を検出できていない空域を飛行したことになる。