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「気球」で天体からの硬X線偏光を捉える!


天体からの光を捉えるには
  • (1)光の強さを測る [測光]、
  • (2)波長の成分に分離する [分光]、
  • (3)天体の画像を取得する [撮像]、
  • (4)光の偏りをはかる [偏光]
    という、4つの手法があります。電波や可視光の 観測では 既に4つの方法を駆使して様々な観測が行われていますが、 X線やガンマ線で偏光を測る試みは、30年も昔から停滞しています。 X線のように高いエネルギーの光は、波動性よりも粒子性が強く、 電波や光学と同じ手法で偏光を捉える事はできないのです。

    それでは 偏光の観測は重要ではないのでしょうか? 偏光は測光、分光、撮像とは 全く異なる物理量で、天体の放射機構を解明するうえで「新しい次元」を提供します。 たとえば、ブラックホールに物が落ち込む時、物体が角運動量をもっていると 周囲に``降着円盤"とよばれる円盤を作ります。 この円盤はブラックホールの 最も近傍を探り、一般相対論を検証するうえでも重要なヒントを与えます。 降着円盤からは強いX線放射が出ているのですが、このX線の偏りを測ることで 降着円盤の幾何学的な形状を探ることができるのです。また、ガンマ線バースト や活動銀河核からのX線放射は、磁場中を相対論的電子が運動することによる シンクロトロン放射と考えられていますが、これを実証した例は今まで報告されて いません。シンクロトロン放射は強く偏光することが予言されているため、偏光を 測ることでこれを直接的に検証することができます。さらに、多くのパルサー天体 (高速に回転する中性子星)からは強いガンマ線が放射されていますが、 ガンマ線の放射機構自体が謎に包まれています。ガンマ線で偏光を測ることで、 パルサーの何処から、どのような機構で放射が行われているのかを 探ることが可能となります。偏光観測は、次世代X線・ガンマ線天文学の重要な テーマとなっています。

    X線は大気に強く吸収されるため、地上で捉えることはできません。X線天文学が、 衛星開発とともに発達したのは このためです。しかしながら、30キロ電子ボルト (30 keV) を超えるX線になると、気球高度(地上から10 km 以上)でも観測ができる ようになります。気球の観測時間は数時間と限られますが、徹底的にバックグラウンド を除去した検出器では、天体からのX線偏光を捉えることが十分可能です。 我々は、スタンフォード大学、プリンストン大学等と共同で 偏光気球プロジェクトを進めており、日本側の代表を務めます。米、日のほかにも、 スウェーデンやポーランドが参加を表明しており、国際プロジェクトとして 今後さらなる発展が期待されます。

    2003年度、PoGO プロジェクトは正式に NASA のサポートする理学重点プロジェクト として認められました。2007-08 年度には、世界で初めて天体からの 硬X線偏光を捉えるプロジェクトとして 米国 Palestine 基地より気球の打ち上げを 行う予定です。

    #プロジェクトの名前は "PoGO (Polarimeter of Gamma-ray Observer)" といいます。 ウォルト・ケリーのキャラクター "POGO" にかぶせた ネーミングです。