― 産学連携で衛星搭載装置を開発 ー

要点

概要

東京工業大学 理学院 谷津陽一准教授とエイブリック株式会社を中心とする研究チームは、2019年より協力して300-340ナノメートルの近紫外線帯に感度を持つ、小型カメラ “UVCAM”を開発しました。本装置は本学工学院 松永三郎教授らが開発する50 kg級の技術実証超小型衛星「ひばり」に搭載され、打ち上げ前の全ての環境試験を完了しました。

ひばり衛星は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の革新的衛星技術実証2号機の実証テーマとして採択されており、2021年10月にイプシロンロケット5号機にて内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられます。ロケットからの衛星分離後、太陽電池パネルが展開されるまでの間はクリティカルフェーズ運用が行われます。その後、システム健全性を確認して、順次姿勢制御実験やAI利用姿勢計測実験、そして紫外線天体観測を行う予定です。

投入予定軌道は高度570キロメートルの太陽同期軌道であり、宇宙空間から北極や南極上空のオーロラからの紫外線放射を観測することで、地球磁気圏と荷電粒子の相互作用の現場を観測するとともに、2022年以降計画する東工大の紫外線時間領域天文観測衛星うみつばめの基礎データ取得を目論んでいます。

プロジェクトメンバー

メンバー 役割
東京工業大学 理学院 物理学系 谷津 陽一 衛星搭載装置開発
東京工業大学 理学院 物理学系 河合誠之 サイエンス スーパーバイザー
東京工業大学 工学院 機械系 松永三郎 衛星システム開発
東京工業大学 工学院 機械系 中条俊大 衛星システム開発
エイブリック株式会社 UVカメラ開発

姿勢制御技術実証衛星ひばり

ひばり衛星プロジェクト

この衛星構想は、2016年に日本宇宙フォーラムが開催する第24回衛星設計コンテストに提案したものが原型となっています。この衛星の特徴は、構造変形を利用した姿勢変更や軌道制御(Variable Structure Attitude Control: VSAC)を応用して、高速姿勢変更と高い姿勢安定度により、紫外線望遠鏡による重力波源の電磁波対応天体探査を行うという、東工大らしくきわめて挑戦的な計画でした。コンテストでは、みごと最高評価である「設計大賞」を受賞しています。「ひばり」という名前の由来は、この種の小鳥は紫外線が見えているらしいこと、飛び回る小さな鳥の姿が VSAC の動きとちょっと(?)似ていること、2014年に打ち上げたTSUBAMEにあやかって、この名前になりました。

2018年より、文部科学省の宇宙連携拠点形成プログラム「新宇宙産業を創出するスマート宇宙機器・システムの研究開発拠点」の中核プロジェクトとして、実際の衛星開発に移行しました。当初は、大型の紫外線望遠鏡を衛星のど真ん中に口径20cmの搭載する予定でしたが、紫外線のための撮像装置や光学系の開発が間に合わず、この衛星ではVSACを利用した姿勢制御と民生品を用いた衛星バスシステムの軌道上実証にフォーカスして、工学技術実証衛星として開発をスタートしました。

図1. (左) 第24回衛星設計コンテスト最終審査回。1/3モデルと共に登壇。(右)完成したフライトモデルと出荷前の最終チェックを行う大学院生。(左から、プロジェクトマネージャと姿勢制御システム開発を兼任した渡邉くん@D2、フライトモデルの構造設計を担当した川口くん@M2、衛星の後ろにいるのは把持展開機構の開発を担当した高橋くん@M1)

革新的衛星技術実証について

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、宇宙基本計画上の「産業・科学技術基盤を始めとする宇宙活動を支える総合的な基盤の強化」の一環として、大学や研究機関、民間企業等が開発した部品や機器、超小型衛星、キューブサットに宇宙実証の機会を提供するプログラムを推進しています。2019年打ち上げの 革新1号機 RAPIS-1には、我々の開発した実験装置「DLAS」が搭載され、世界初の軌道上エッジAIによる宇宙空間からおリアルタイム画像認識に成功しています。

2018年に、我々は革新2号機の実証テーマとして本衛星を提案し、採択されました。イプシロン5号機のピギーバック衛星として打ち上げられることが決まりました。VSACは全く新しい発想の姿勢制御実験であり、ひばり衛星はほとんど新規設計ばかりですが、与えられた開発期間は2年ちょっとしかなく、これを10人程度の大学院生がほとんどゼロから設計・開発しました。

図2. 完成したHibari衛星のフライトモデル。