― 産学連携で衛星搭載装置を開発 ー

研究内容

観測ターゲット

日焼けの原因として知られる紫外線(図3ー左)は、可視光とX線の中間程度の波長を持つ光の一種です。紫外線はオゾン層などによって遮られるため地球上ではほとんど観測することができません。このため、天文学分野においては依然としてほとんど未開の波長帯になっています。一方で、爆発する天体からは紫外線が放射されると考えられており、紫外線での広域観測は "未知の天体現象" を探査する際にきわめて強力な手法になると期待されています。本研究では、紫外線での天体観測のための基礎実験として、紫外線に感度をもつ小型カメラ “UVCAM” をエイブリック株式会社と共同で開発しました。

UVCAMは、衛星軌道上からは高度570kmの宇宙空間から高層大気からの輝線放射や高緯度地域上空のオーロラからの紫外線などを計測します。オーロラは、太陽から飛来する高エネルギー荷電粒子が大気中の元素と相互作用することを原因とする発光現象です。私たちの目に見える可視光域では、青・緑・赤などの元素に特有の色が観測されます。実は紫外線域でも水素や酸素の輝線が放射されています。図3(右)は革新1号に搭載された可視光カラーカメラDLAS/ECAMで撮影したオーロラの画像です。これを Hibari/UVCAMでは紫外線で撮像します。

図3. (左) 紫外線の波長・周波数。(右)革新1号 DLAS/ECAMで撮影したオーロラ(撮影 2019年3月11日20:47:35UT イタリア上空から、北極周辺の極冠を撮影)。

センサ開発

UVCAM の紫外線CMOSセンサはエイブリック株式会社と東北大学が開発しました。また、エイブリックは車載用の高信頼性半導体デバイスを開発しており、これらの一部は宇宙空間のような厳しい温度環境にも十分に耐えられます。CMOSセンサの読み出し回路にはこれらの高信頼・高性能の民生部品が利用されています。(図4-左上)。一方、本学の研究チームは、地上では通常問題になることのない宇宙放射線の影響を確認するため、本学の先導原子力研究所コバルト照射施設や若狭湾エネルギー研究センターのシンクロトロン加速器を用いて放射線耐性を入念に検証しました(図4ー左上)。その後、科学観測に必要なセンサの詳細な性能評価を行い、宇宙環境での動作を想定した光学系のアライメント・フォーカス調整を行い、制御ソフトウェアを開発して、衛星搭載センサシステムとして完成させました。

図4. (左上) フライトモデル筐体に組み込まれたセンサ回路。(右上)紫外線観測用のレンズ。打ち上げ振動に耐えるため、完全に固着してあります。(左下)放射線環境試験に利用した若狭湾エネルギー研究センターのサイクロトロン加速器。(右下)UVCAM光学系の分光透過率(FWHMで290~360nmに感度)。

いざ宇宙へ!!

UVCAMは、2021年4月に、真空環境を想定したピント調整を完了して、衛星チームへの引き渡しを完了しました(図5ー左)。5月にはHibari衛星に組み込まれ(図5ー右:中央右の黒い箱がUVCAM)、打ち上げに伴う強烈な振動・衝撃を模擬する機械環境試験や、宇宙空間の温度環境を模擬する熱真空試験、運用模擬試験を行いました。ひばり開発チームは8月には打ち上げ前の全ての環境試験を完了して、内之浦宇宙空間観測所へ衛星を出荷しました。Hibari衛星は既にイプシロン5号機に取り付けられ、静かに打ち上げを待っています。


図5. (左) 完成したUVCAMのフライトモデル。(右)Hibari衛星に搭載されたUVCAM。