— 新種のパルサー発見に、日本の総力を結集 ー

観測から見えてきた「毒蜘蛛中性子星」の姿

観測結果の解釈

 ここまでの観測を総合すると、連星系の主星は高温で高速で回転するパルサーであり、周囲に強烈なプラズマの風をまき散らしているという描像が得られます。さらに、このプラズマはパルサーの傍を周回する伴星を直撃し、その片面だけを 7000 度にまで加熱しています。この結果、伴星の一部は蒸発して、剥ぎ取られたガスが連星系の周囲で冷え赤外線を放っていると考えられます(図1)。

図1. 観測から見えてきた「毒蜘蛛中性子星」2FGL2339.6-0532の想像図。
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その正体は新種のミリ秒パルサー

 伴星を 7000 度にまで加熱するために必要なエネルギーから見積もって、このパルサーの自転速度は 1 秒間に 1000 回転近いと推定されます。パルサーは大質量星の超新星爆発から生まれ、単独でいる場合には数万年で回転が衰え暗くなってしまいます。しかし、伴星がいる場合には“相棒”(伴星)からガスの供給を受け、数十万年の長い年月をかけて再びスピンアップして光り出すものもあります。このような天体は自転に伴う数ミリ秒周期の電波パルスを放射するため「ミリ秒パルサー」と呼ばれています。我々が観測した 2FGL2339.6-0532 もその仲間と考えられますが、ミリ秒パルサーに特徴的な電波パルスが見つかっていません。このような「電波で暗い」ミリ秒パルサーは理論的に存在が予想されてきましたが、観測で見つかったのは今回が初めての快挙となります。

どうして毒蜘蛛?

 今回観測した2FGL2339.6-0532は、他のミリ秒パルサーの例と同じように伴星からガスの供給を受けて、非常に長い年月をかけてスピンアップしたものと考えられます。これは、発見された場所が我々の天の川銀河面からずいぶん離れた位置にあることとも矛盾しません。ところが、十分な回転エネルギーを蓄えた途端に、今度は自身の発するパルサー風で、長年養ってくれた相棒を蒸発させようとしています。このようなミリ秒パルサーは他にも発見されており(PSR B1957+20)、共食いする毒蜘蛛にたとえて「 ブラックウィドウ(黒ゴケ蜘蛛)パルサー」と名付けられています。