— 新種のパルサー発見に、日本の総力を結集 ー

観測連携ネットワークによる光・赤外線マルチカラー観測

観測概要

 これまでに Kong 教授らの行ってきた可視光観測は単色での観測であり、周期性以外の物理情報を引き出すことが困難でした。一方、東工大チームは山梨県北杜市の明野50cm望遠鏡を使って可視三色を同時に 観測してきたものの、光度変動が激しすぎたために最も暗いフェーズでは正確に明るさを測ることが出来ませんでした。しかし、正体の分からない天体の観測に大型望遠鏡を長時間占有するのは難しいのが現状です。

OISTER: 光・赤外線天文学大学間連携の発足

 そのような中、日本の大学と国立天文 台が国内外に持つ中小の望遠鏡を結びつけた地球規模の観測連携ネットワーク「光 ・ 赤外線天文学大学間連携」、通称 “OISTER:Optical and Infrared Synergetic Telescopes for Education and Research (図1)” が 2011 年に発足しました。OISTER は突発天体に対応するための観測網であり、口径 50cm から 2m までの国内外の望遠鏡をフレキシブルに連携させることができます。これは長時間の連続観測を必要とする 2FGL2339.6-0532 には最適な観測システムであり、東工大を中心とする研究チームは2日間連続の多色観測を計画しました。当初、観測は 2011年9月29日から予定されていましたが、あいにく天気予報が全国的に雨だったために、急遽予定を2日間繰り上げて観測を行っています。このような気象のトラブルは、可視光観測では避けることのできない問題ですが、観測拠点が分散していることと中小望遠鏡の優れた機動性により、このリスクを回避することができました。結果として、国内は北海道から石垣島まで総数 12 の観測所、さらにはエジプト・南アフリカ・チリの国 外観測所の連携により、近赤外線から可視光にわたる広い波長帯での連続光度曲線を取得することが出来ました。


図1. 光・赤外線天文学大学間連携(OISTER)の拠点観測施設。(画像をクリックす ると高画質版を表示できます。)


図2. 本キャンペーン観測に参加した観測施設(左からコッタミア観測所/エジプト、神山天文台/京都産業大学、県立ぐんま天文台、県立西はりま天文台)

可視光画像

星の明るさを測る「測光」を行うために、我々はCCDなどの撮像デバイスを使って天体写真を撮ります。図3は石垣天文台が捉えた2FGL2339.6-0532の可視・近赤外線画像です(赤=I-band, 緑=R-band, 青=g'-bandを合成した擬似カラー画像)。データ解析ではこの画像から対象天体の星像のみを切り出し、その領域の中に星からの光が何個入射したのかを計算します。図3は極大から極小までを4回に分けて表示したものです。もっとも明るい時で最大17.5等級、暗いときで21.5等級まで減光します。

図3. 石垣島天文台で撮影した2FGL2339.6-0532の可視光画像の時間変化(緑・赤・ 近赤外線を擬似カラー化して表示しています)。軌道運動の位相(図4を参照)は、 左から 0.5(極大), 0.7, 0.9(極小), 1.1 に対応しています。→ GIFアニメーション

光度曲線

図4は伴星の明るさが軌道周期でどの様に変化するかを色ごとに描いたものです。可視光の緑(Vバンド)や赤(Rバンド)では明るさが最大で4等級近く変化してい ます。これは光の放射量が 40 倍も変化していることを意味し、伴星表面の温度が3000 度から 7000 度に周期的に変化していることを示唆します。対照的に、近赤外線(Ksバンド)ではほとんど明るさが変化していないことから、伴星とは別の赤外線源が存在すると考えられます。


図4. 観測連携ネットワーク“OISTER”で観測した近赤外線から可視光の多波長光度曲線(5色)。各データ系列は波長の長い(赤い)方から順に、黒 = 赤外線(Ks バンド)、マゼンダ = 赤外線(J バンド)、赤 = 赤色(R バンド)、緑 = 緑色(V バンド)、 青 = 青色(B バンド)の光度変化を示す。(画像をクリックすると高解像度版を表示できます。)


SED

準備中