— 新種のパルサー発見に、日本の総力を結集 ー

日本のX線天文衛星 すざく を使ったX線観測

 観測概要

 可視光観測と並行して、ガンマ線を放射していると思われる「主星」の正体を明らかにするため、早稲田大学・国立清華大学が中心となってX線での観測を計画しました。X線は地球の分厚い大気に遮られてしまうため、地上から観測することはできません。このため、X線での観測には人工衛星が必要になります。そこで我々は日本のX線天文衛星「すざく」を用いて丸二日以上に渡る長時間観測を行いました。すざくは日本の5番目のX線天文衛星で、2005年に鹿児島県内之浦から打ち上げられました(図1)。この衛星は軽量ながら集光力に優れた多相薄板反射望遠鏡XRT(X-Ray Telescope) を4台搭載しており、X線用CCDカメラXIS(X-ray ImageSpectrometer)を用いた高精度な分光観測を行うことができます。以下に紹介する研究成果は早稲田大学の研究チームが中心となって解析してきたものです。

図1. (右) M-Vロケットに結合されたX線天文衛星「すざく」。(左)打ち上げ前の すざく(2005年/鹿児島県 内之浦宇宙空間観測所)
すざく衛星のホームページ(ISAS/JAXA)

観測結果 - 中性子星の証拠をとらえる -

図2にフェルミ衛星によるガンマ線画像(右)とすざくの観測により得られたX線画像(左)を示します。X線画像の図で赤色の矢印の先の明るい天体が私たちのターゲット天体です。緑色の楕円はフェルミ衛星のガンマ線観測により求まった2FGLJ2339.6-0532の位置誤差領域を表しています。図2からも分かる通り、このX線天体が唯一のガンマ線源のX線対応天体となっています。


図2.フェルミ衛星によるガンマ線画像(右)とすざくの観測によるX線画像(左)。 「熱的成分」が「黒体放射」を表したモデルで、「非熱的成分」がパルサー風か らの放射を表している。

光度曲線

 今回のすざくの観測により、X線放射も可視光と同様の約4.63時間の周期で変動していることが分かりました(図3)。しかし、1周期のX線の振る舞いは単純な増光を繰り返す可視光とは異なり、高エネルギー側のX線で二山のピークを持った光度変動を示しています(図3左下段)。一方、低エネルギー側のX線には大きな時間変動は見られずほぼ定常的な放射をしています(図3左上段)。この違いは、エネルギーごとにX線の放射領域が異なることを示唆しています。また、図3右の図は各位相でのX線のイメージです。X線の明るさが時間変動していることがはっきりと分かります。

図3.X線の光度変動(左)と各位相でのX線画像(右)。左の図は、軌道周期の各位相に対応したX線光子の数を数えて、露光時間で割った図になっている。


スペクトル

上記の2種類のX線放射がどこからやってくるのかを調べるためにスペクトル解析を行いました。その結果、観測されたX線に高温の物体から放射される「黒体放射」の成分が含まれていることを初めて発見しました(図4)。黒体放射は放射源の温度と大きさによってそのスペクトルの形状が決まります。解析の結果、放射源の温度は約100万度(0.15 キロ電子ボルト)、これに対し放射源の大きさは半径1.6キロメートルと推定されました。このような小さな放射源の半径は、半径が10キロメートル程度の中性子星以外には考えられません。

 一方で、高エネルギー側まで伸びた放射はパルサー風(※)と呼ばれる強烈な電子・陽電子プラズマの風からのX線放射の特徴と良く一致します。したがって、これら2成分のX線放射はともに連星系の主星が中性子星であることの決定的な証拠になりました。

図4.X線スペクトル。赤と黒のプロットはそれぞれ、低エネルギー側により感度がある検出器と高エネルギー側により感度がある検出器のX線データ。


※パルサー風 - 一般的に中性子星(パルサー)はきわめて強い磁場を帯びた状態で高速で自転しており、磁場にとらえられた電子・陽電子が光速近くまで加速され周辺空間に電子・陽電子プラズマを吹き出している。この電子・陽電子プラズマの流れをパルサー風と呼ぶ。