文部科学省科学研究費補助金 平成19年度発足特定領域(領域番号468)

ガンマ線バーストで読み解く太古の世界

最遠の宇宙を求めて

>ガンマ線バーストについて:最遠の宇宙を求めて

最高赤方偏移の観測史

 ガンマ線バーストが宇宙最遠方の観測に迫っていることを、各種の天体の最遠観測記録の歴史が物語っています。1960年台から宇宙最遠方の天体の座をクェーサーと銀河が争ってきましたが、わずか0年前の1997年に初めてこの競争に参入したガンマ線バーストが、急速に追い上げて、先行した2者に肉薄しています。前2者と違い、観測装置の能力による限界にはまだ達していないので、追い抜くのは時間の問題と思います。このガンマ線バースト最遠観測記録を作ったのは、すばる望遠鏡を用いた我々の観測でした。次にその観測を紹介します。

ガンマ線バーストの残光スペクトル
 これがすばる望遠鏡によって観測した、今までに観測された中で最も遠方のガンマ線バーストの残光スペクトルです。中性水素の吸収端や、各種の元素による吸収線から、このバーストが、宇宙の年齢がまだ9億年のときに起きたことがわかります。
 ガンマ線バーストを取り囲む母銀河のガスに含まれる炭素、酸素、硫黄などを検出し、その存在比をこれほど遠方の天体としては初めて測定しました。
 さらにこの時代の宇宙が既に電離していたことも明らかにしました。これは、この時代以前にすでに古い星が明るく輝いて宇宙空間を電離したことを意味します。また、硫黄も前の世代の星の超新星爆発によってばら撒かれたものです。このあとの究極の目標は、まだ前の星によって汚染されていない、まったく炭素、酸素、硫黄などを含まず、電離もしていないガスの中で発生する宇宙最初の星野おこすガンマ線バーストです。

宇宙の歴史

 下の図は、ビッグバンから現在にいたる宇宙の歴史を簡単に表したものです。上には宇宙の年齢と、その時代の宇宙からの光の波長がどれだけ伸びるかを示す赤方偏移という量を示してあります。137億年前にビッグバンで宇宙が生まれました。その火の玉の宇宙誕生から約40万年後の姿がマイクロ波宇宙背景放射として現在観測されていますが、これは、10万分の1のゆらぎしかなく、その時代の宇宙がきわめて一様なのっぺりしたものだったことを示しています。その後、宇宙の温度はどんどん下がり、光のない真っ暗な時代になりましたが、そのなかで、いつか最初の星が生まれ、それが集まって銀河ができ、それがさらに集合し変化し、現代の多様な宇宙、さまざまな銀河や星、そして生命を宿す惑星を含む多様な宇宙に進化してきたのです。
宇宙の歴史
 最初の星、最初の銀河がどのようなものだったのか、いつ生まれたのか、というは、天文学における最も根源的な問いですが、現代の天文学は、まさにその答えに手がとどきかけるところまで来ています。すばるを初めとする巨大望遠鏡や宇宙望遠鏡によって宇宙年齢10億年(赤方偏移7)ぐらいのところの銀河が見えてきました。そして、それらは現在の銀河とずいぶん異なったものであることも分ってきました。しかし、いままでのやり方は限界に来ています。この限界を乗り越え、最初の銀河、最初の星を、現在ある観測装置(数年後に出来る30メートル望遠鏡や次世代宇宙望遠鏡ではなく)観測できる可能性を提供するのがガンマ線バーストなのです。たった一個の星が爆発するだけで観測可能になるガンマ線バーストならば、数多くの星が集合する銀河が形成される前の、最初の星ぼしの時代を直接観測できるのです。