全体計画概要
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概要
ビッグバンによって生じた一様な「混沌」から銀河や星が初めて生まれる現場である太古の宇宙を、ガンマ線バースト(GRB)という宇宙で最も明るい光源を用いて解明するのが本研究領域の目的である。
太古の宇宙を読み解く鍵
ビッグバンで生じた熱い宇宙が次第に冷却し、ガスが集まって宇宙最初の星(初代星)が生まれた。この事件はビッグバンの2億年後から10億の間(この期間を本研究では太古の宇宙と呼ぶ)で起きたと思われるが、いつ、どのように起きたのかわかっていない。手がかりとなるのは、以下の三つの現象である。
- 宇宙の再電離:ビッグバンの38万年後にいったん中性化した宇宙空間の水素ガスは、初代星の紫外線によって再電離された。すなわち、宇宙が再び電離した時期が初代の星の誕生を示す。
- 星の死:大質量の恒星が燃え尽きて核融合反応が停止すると、核が中心に向かって崩れ落ち、ブラックホールを形成する。その過程で莫大なエネルギーが放出される。
- 重元素汚染:ビッグバンでは水素とヘリウム、それに微量のリチウムしか作られない。炭素以降の重元素があれば、それ以前に恒星が生まれ、死んだことを示す。
ガンマ線バーストという手段
この3つの手がかりを読み解く鍵を提供するのがガンマ線バースト(GRB)である。GRBは、大質量星が死ぬときに発生する数十秒間の強烈なγ線放射であり、数日間以上かかって減衰するX線や可視光の残光を伴う。GRBは極めて明るく、生まれて2億年の宇宙(すなわち135億光年の彼方)で発生したとしても、観測可能である。そして、太古の宇宙で発生するGRBの残光スペクトルには、その時代の水素の電離度や重元素の存在などの情報が刻みこまれているはずである。
研究課題
本領域は、それぞれ、衛星によるX線ガンマ線観測、地上からの可視赤外残光の観測、および理論研究の3つの計画研究からなります。計画研究Aについていえば、現在、Swift衛星が年間100個の割合でガンマ線バーストの位置を通報しており、今後4年間の稼動が期待される上、GLAST, MAXIなどGRB研究に役立つ新しいミッションがこの1,2年の間に打上げられるので、これらを用いた観測を行ないます。
可視光では国内の小望遠鏡による自動観測をすすめます。宇宙遠方の観測に必要な1メートル級赤外望遠鏡は世界的にまだ数が少ないので極めて重要です。こうして見つけた遠方と思われるバーストを、すばる望遠鏡で分光観測に結び付けます。
理論研究では、X線ガンマ線観測に基づいたガンマ線バースト宇宙論、および最遠方バーストをつくる初代の星について研究します。
- 人工衛星によるGRBのX線ガンマ線観測 (計画研究A)
(Swift, GLAST, MAXI)位置速報、スペクトル、変動
(将来ミッション: NeXT, EDGE)観測機器開発 可視光 - 近赤外残光の観測 (計画研究B)
(小望遠鏡の撮像)距離の推定、精密な位置
(すばる分光観測) 精密な距離、重元素検出、宇宙電離度 - 理論研究(計画研究C)
GRBを距離指標とする宇宙論
宇宙の初代の星
各計画研究の相互関係
各計画研究の相互関係を説明いたします。X線ガンマ線観測で発生を検知し、位置を求めると、光赤外観測によって、距離が測られます。また、光赤外観測によって得られた距離やバースト源周辺の状況、たとえば元素の組成の情報から、理論班が初期宇宙の進化を研究します。ガンマ線エネルギーや時間変動のデータは、ガンマ線バーストを用いた宇宙論の研究に使われます。

特定領域として推進する理由
まず、ガンマ線バーストを用いた太古の宇宙の研究が、まさに世界的に成長期にあることです。
ガンマ線バーストが宇宙遠方で起きていることが確立してから、まだ10年しかたっていませんが、さきほどお見せしたように、急速に最遠方記録に肉薄しています。革命的発見がもっとも期待される観測対象として世界中の天文学者がしのぎを削っています。2年前から稼動しているガンマ線バースト専用衛星Swiftは、 4年間の運用がNASAによって確約されている上、GLASTやMAXIがこれから次々に打上げられる今後4年間が、地上観測と合わせて最大の成果が期待できるチャンスです。
また、衛星観測でも地上観測、および理論においてガンマ線バースト実績をもつ日本のグループが、世界に類を見ない緊密な研究グループを組んでいる、というのも本領域の特徴です。
まとめ
- 目標:宇宙の一番星を見つける
- 今後5年以内にこれができるのは、ガンマ線バーストだけ
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