【速報】TSUBAME打ち上げ成功!!【速報】

2014年11月6日、日本時間午後4:35に東工大4機目となる硬X線偏光観測衛星 TSUBAME がロシアから無事打ち上げられ、インド洋上で無事ロケットから分離されました。TSUBAMEは打上げから約4時間後にはじめて東京上空を通過し、東工大地上局との通信を確立しました。取得したテレメトリを解析したところ、分離から1000秒後に4枚の太陽電池パネルを展開し、次いで磁気トルカを用いたデタンブリング・スピン制御・太陽捕捉を行ったと考えられます(詳細な姿勢遷移記録は、11月中旬以降に予定されているS-band運用で取得する予定です)。
これまでの衛星の状態ですが、打ち上げ以降、太陽角は0~10°と安定し、電源電圧・消費電力・各部温度ともに設計通りの値が得られています。現在は偏光計のファーストライトへ向けて、衛星バスシステムの機能確認を慎重に進めているところです。

謝辞

この初期運用では、打ち上げ直後から全世界のアマチュア無線家の方に多大なご協力を頂いております。TSUBAMEチーム一同、心よりお礼申し上げます。今後ともよろしくお願いいたします。

ロケットインターフェイスに取り付けられたTSUBSAME(右下) 打ち上げの様子。このロケットはミサイル転用のため、地下のサイロから打上げられ、一瞬のうちに飛び立ちました

最近の運用

2014-11-08: 補助回線としてS-band受信機に電源を投入。電源・構体温度共に正常。

2014-11-09: 衛星制御シーケンスを「初期運用モード」から「定常運用モード」へ移行完了。

2014-11-10: GPS受信機動作確認。CDH/ADCS時刻同期成功。

本研究の目的

ガンマ線バーストとは

いまから約40年まえ、冷戦時代の最中に打ち上げられた米国の核実験監視衛星 「VELA」 は、ときおり地球からではなく、宇宙のどこかから強烈なガンマ線が降り注ぐ不思議な現象を発見しました。その発生頻度は一日におよそ一回、いつ、どの方向で起こるのかは予測ができません。偶然発見されたこの現象は「宇宙のどこかで核戦争が起こっている」とも噂されていましたが、現在では、はるか遠方の宇宙で起こった天体の爆発現象であり、ブラックホールが誕生する時の産声のようなものだと理解されています。しかしながら、放射の継続時間が数ミリ秒から長くても数百秒程度とたいへん短く、急激に暗くなってしまうために観測が難しく、その核心となる物理過程はいまだに謎につつまれています。

図1-1: ガンマ線バーストを観測する超小型衛星TSUBAMEの期待を込めた想像図(©鈴木くん@松永研)

解決すべき課題

これまでの観測から、典型的なガンマ線バーストから放射されるエネルギーは「等方放射」を仮定すると通常の超新星爆発 (10^52 ergs) の100倍以上になってしまうことが知られています。現在では、ガンマ線バーストの爆発によるエネルギーが「ジェット状に細く収束した爆風として射出され、衝撃波を形成する」というモデルで説明されているのですが(図1)、

  • 爆発エネルギーがどうして特定の方向に向いて収束されているのか?
  • どうやって加速されるのか?
  • そこからどうやってガンマ線が放射されているのか?

というガンマ線バーストを駆動する根本原理はほとんど分かっていません。

図1-2: 現在我々が想像しているガンマ線バーストの放射機構(NASA GSFC)

これらの問題を解決するのが難しい理由の一つは、対象天体が数億光年から百億光年というきわめて遠い宇宙にあるために、見かけのサイズが小さすぎて撮像によって直接構造を分解して観察することが出来ないことです。現在、人類の持っている最も大きな望遠鏡を使ったとしても、ガンマ線バーストは単なる点光源としてしか観測できないため、その内部については、測光(明るさ)と分光(色)に頼る以外に研究の方法がありません。しかしながら、ガンマ線バーストとして観測されるガンマ線や可視光の放射は、実は爆心から数億キロも離れたところで光り始めと考えられており、我々が一番知りたい「爆心点付近で何が起こっているのか?」は、測光・分光・撮像といった従来の観測手法では窺い知ることができませんでした。

X線偏光によるアプローチと技術的困難

このガンマ線バーストの爆心に迫るために有効だと考えられているのがX線偏光観測です。偏光(電波の場合は偏波)とは光子ごとの電場ベクトルの方向が一様にそろっている状態のことを意味します。例えば、図2に示す様に天体の内部に一様に揃った磁場が存在する場合、その放射は偏光することが予想されます。逆に言えば、天体からの放射の偏光度を測定することで天体内部の磁場の情報をうかがい知ることが出来ることになります。そしてこれが偏光観測の最大の魅力です。

図1-3: 電磁波の偏光と磁場の関係(電波の例)

謎に包まれた、ガンマ線バーストの爆風形成やガンマ線の放射過程において、「磁場」が重要な役割を担っていることが理論的研究から示唆されています。これら爆心近傍での物理過程は、通常の観測では見ることはできませんが、もしも、磁場が重要な役割を果たしているのであれば、ガンマ線の放射が始まるころまでその磁場が残留し、偏光観測によってその証拠が捉えられるかもしれません。本研究では、この磁場の証拠を探るために、ガンマ線バーストのX線偏光観測を行おうとしています。

ところで、偏光の測定は電波や赤外線・可視光では既に一般的であり、多くの科学的成果が得られています。特に可視光では3D TV用のメガネや液晶、反射防止フィルターなどの身近なところにも「偏光」が応用されています。しかしながら、X線やガンマ線といった高エネルギー帯での偏光はほとんど観測された例がありません。これはX線やガンマ線のエネルギーが高いために、「波と粒子」という光子の2つの性質のうち粒子性の方が卓越してしまうためです。そのため、可視光でよく使われる「偏光板」などの装置をX線やガンマ線に応用することは出来ず、観測装置開発が技術的な障壁となっています。

本研究の戦略と特色

X線偏光観測による観測は高エネルギー天体物理学の世界において最もホットな観測手法の一つであると捉えられており、世界中の研究機関が開発競争を繰り広げています。私たちはそれを世界に先んじて実現するために、打上機会の多い超小型衛星を敢えて観測プラットフォームに選び装置開発・衛星を行ってきました。質量・寸法・電力にたいへん厳しい制約のある超小型衛星ですが、最新のセンサ技術を積極的に投入し、ガンマ線バーストに特化したチューニングを施すことにより、小型・軽量そして安価でありながら、最先端の宇宙科学観測を実現します。

ガンマ線バーストは突発天体でありいつどこで起こるのかわかりません。この様な現象に瞬時に対応するため、TSUBAMEは限られたペイロードに主検出器である硬X線偏光計(Hard X-ray Compton Polarimeter: HXCP) と 衛星軌道上でTSUBAME単独でバーストの検知と粗い即時位置決めを行う広視野バーストモニタ(Wide-field Burst Monitor: WBM)という二種類のセンサーを搭載して、ガンマ線バーストのプロンプト放射を瞬時に検知します。また、TSUBAMEの衛星バスには、多摩川精機と協力して新規開発した小型・軽量で高トルクの「コントロールモーメントジャイロ(Control Moment Gyro)」を搭載し、最速で毎秒6度角という人工衛星としては極めて高速な姿勢制御を実現します。これによりWBMがバーストを検知した後からポインティングを開始しても、プロンプト放射の偏光観測にギリギリ間に合わせることが可能です。

我々は、このミッション構想を2004年の夏に練り上げ、日本宇宙フォーラムが開催する第12回衛星設計コンテストで設計大賞を受賞しています。概念設計当時、我々はまだ打ち上がる直前だったNASAのガンマ線バースト即時観測衛星の「Swift(和名:アマツバメ)」を強く意識して、本衛星を「つばめ(TSUBAME)」と命名し開発を行ってきました。

このウェブページではこの挑戦的な超小型観測衛星TSUBAMEのミッション概要について紹介します。

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