2012年 フライトモデル開発フェーズ Part1

2011年にやり残した仕事はセンサ筐体の機械設計。なんとしても打ち上げに耐えられる構造設計を実現しなければなりません。

TSUBAME功労者 戸泉くんのD論発表会(感涙)。そして、なぜか嬉しそうな林さん。 KEK実験の結果と観測装置全体のシステム設計をまとめた榎本くんの修論発表。いつでも帰ってこれる様に席は残しておきます。

精神的支柱であった榎本くんの卒業から早くも1ヶ月。ついに新型偏光計筐体の試作部品が完成!!
この構造設計にあたっては、東大の中澤さん、金沢大の米徳さんから、すざく衛星のHXDや IKAROS衛星のGAPの開発経験から様々なアドバイスを頂きました。本当に有難うございました。

5月:イケメン(森井くん)に叩かれる我らの偏光計(旧筐体で伝達関数の測定)@宇宙研 そして、逆襲の新型偏光計(PMT保持部の要素試作)。QTレベル高周波衝撃試験を無事通過!!
6月: 高周波衝撃試験の成功を受けて、残りの部品を製造。(脱脂洗浄中) ベーキングの準備
ベーキング中 そして、仮組み。写真を撮る川上くん。
この頃からCPUに目覚め始めるヨーダ。実行中のプログラム書き換え機能実装。CP久保さんとの会話はもはや聞いてても理解不能に フライトモデル用PMT選別のためせっせとゲイン測定を行う林さん。
8月: トンボの群れ(WBM用APD実装基板) 林さんによりシリコーンゲルのAPD受光面上成膜技術が確立。
9月: APD接続 WBM完成。残りは天文学会が終わってから。。。
10月: 大分の天文学会を満喫した後の川上くん。いよいよ工学部の衛星バスとのIF調整が増えてきました。 ハーネス作成。
フライト用高圧電源基板がついに完成 式神を召喚するための護符(CsI結晶のための反射材切り出し)
そして偏光計フライトモデルのハンダ付け APD取り付け
反射材準備完了 偏光計の吸収体キット準備完了
11月MAPMT+プラスチックシンチレータの接着 散乱体ユニット組み立て完了
12月:KEK実験へ向けて急ピッチで組み上げ。ブリーダー基板、PMT読み出し回路取り付けの後、吸収体と合体 ハードウェアと並行して進む制御ソフトウェアの開発も詳細設計に入ります。(栗田くんはまだ痩せてますね)
GPIB制御マスターの川上くんは自動ステージの制御プログラムを準備。Astro-HのAPD受入試験のプログラムも彼が作りました。 開発に疲れたら、動物に餌をやったりして気分転換をしています
2012年も残り僅か。12月は恒例のKEK実験です(前夜祭)。 関東とは思えない寒さで昨晩は氷点下5℃以下(実話)。自転車に乗ると寒くて顔が痛い。愛車とともに筑波山を望む
今年の指揮官はヨーダ。昨晩の楽勝気分から一転。一部チャンネルがESDで壊れていることが発覚してテンション急降下 それでも予備基板に付け直し、なんとか測定開始。川上製ステージ・コントローラは快調
12月:恒例のKEK照射実験。今年の指揮官はヨーダ。急ピッチで組み上げた偏光計の一部チャンネルがESDで壊れていることが発覚。 予定繰り上げでWBMの評価実験を行うことになった川上くん
痩せてた頃の栗田くん。動きも機敏でした。 放射線でおかしくなったのかテンションの高い林さん。
KEK実験が終われば、この二人もついに修論モードです。 例によって今回も疲れました。実験終盤のグロッキーなご様子

2013年 フライトモデル開発フェーズ Part2 〜マイスター伊藤の時代〜

息が合ってるのか合ってないのか微妙ではありましたが、ヨーダ・川上コンビと林さんもついに卒業。TSUBAMEチームも一気に寂しくなり、不安な表情を見せるB4栗田くん。

修論を頑張るヨーダ おなじく頑張る川上くん
無事発表終了。これでマスター・ヨーダになりました。 こっちも無事発表終了。お疲れ様でした。(あれ、林さんの写真を撮り忘れた様な。。。)
修論も終わり引き継ぎ。ますます不安な表情の栗田くん(心労で痩せてしまうかに思えたが、、、) 一方、宇宙研ではTSUBAMEフライトモデルの統合試験・熱真空試験が進行中。そして魔物が覚醒。

しかし、ここに新星が現れます。B4とは思えない実験センスと類まれな器用さをもつ伊藤くんの登場。偏光計・WBMの組み上げを完璧にこなし、さらに卓越したプログラミング能力も圧巻。榎本くん・ヨーダ・川上くんらが作ってきたガンマ線観測システムの制御プログラムを、あれよあれよという間に、たった1年であらかた実装してしまいました(指導とか全く要らない。むしろ邪魔になるから見てたほうが良いレベル)。マイスター伊藤は、他にもMITSuMEやMAXI関連の超便利なWebツールを作って、研究室にIT革命を巻き起こしました。偏光計はあとはパラメータ調整だけです(だと良いな)。。。

待望の新B4伊藤くんの登場。(左からまっつん、伊藤、なんかちょっと太った?栗田、有元) 伊藤くんの実力: (上)伊藤くんが作ったハーネス (下)誰とは言わないが前任者が作ったハーネス。工作精度が1桁以上違うらしい。

ここで、ふと顔を上げて衛星システム全体を見渡してみます。今まで、ロケットの打ち上げは延期につぐ延期で、アルキメデスの亀状態。シッピングの予定日になって半年延期が通達されるということの繰り返しでした。国外から打ち上げのため、衛星のシッピングには最低でも1ヶ月以上かかります。したがって、実質5ヶ月という時間しか与えてもらえないため、たとえ不具合が判明していても大きな改修は不可能です。これに対し、センサ系は「間に合わなければダミーマス」という決死の覚悟で、打ち上げ延期を織り込んだスケジュールに賭けて動いていました(衛星の機能に影響しないサブコンポだから出来る勝手な判断ですが、較正せずに打ち上げても意味のあるデータにならないため選択の余地はありません)。一方の衛星バス側はスケジュール的には常に優等生で、BBM・EM・FMと淡々と進めていましたが、実際には大小様々な不具合の巣窟となっており、2013年4月のシステム統合試験ではほとんど全ての基本機能が使いものにならない状態でした。2013年の伊藤くんの大車輪の活躍の裏では、その分センサ系の戦力が衛星バスシステムのデバッグに投入されていました。特に電源系の症状は重篤で、2度のターンオンでスイッチまわりの素子が2箇所焼損。学部1年からボランティアでTSUBAME開発に身を投じてきた不屈の男 松下くん(通称: まっつん、見た目は元気ない感じ)が理学部分隊と協力して諸悪の根源であるVpp=10Vのデス・ノイズ に正面から立ち向かいます。

6月:Cute-I打ち上げ10周年記念運用。懐かしいというか超豪華なメンツですね。これなら明日打ち上げでも何とかなりそう。 充電制御回路の手組み。フルパワーで3A・40V(怖)。普段は「暗電流が5nAだと大きい」とかそんな平和な実験生活をしています。
黙々と作業する伊藤くん。気付くと変な装置を作っています。 前回のKEKで死んでたVATA基板も復活。再組み上げです。
マイスター伊藤の活躍により完成。 ついに、偏光計が東工大を後にします。(確実に太ってきました)
10月吉日: 満を持してシステム統合試験に臨みます。 と思った矢先にCOM事件の再来でフライト用CPU基板喪失。衛星バス側もギリギリなスケジュールのためすぐ原因究明に着手
頑張る伊藤くんと、眠くてもはや半目の有元博士 寝落ちした栗田くん(やっぱり太ったよね?)
なんとか基板換装完了。 この2日間で故障原因・破損箇所の特定、リスク解析・作業手順立案、基板交換作業を完遂。無事動きました。これでセンサ系は衛星システムへ引き渡し完了。
ヨーダが高エネ研測定器開発優秀修士論文賞を受賞しました! (Astro-Hの開発で受賞した東大/ISAS高橋研の一戸さんと) まさか日の丸フラッグシップ衛星の開発チームと並んで受賞とは。日本物理学会@高知大で授賞式と記念講演。カツオの塩タタキはマジウマでした(塩バカにしてた)
そして伊藤くんの卒論中間発表。スライドの動画が異常に凝ってて釘付け(酔いそう)。

2013年はまさに伊藤くんの年でした。河合研内で数々の産業革命を起こし惜しまれつつ就職してしまいましたが、彼の破竹の活躍があったからこそ、理学系の戦力の分散作戦が可能となり、衛星全体のトラブルの原因になっていた「電源システム」の全面改修を敢行することができました(思い起こせば昔やった電気統合試験の時に、ヨーダが「たまに凄いノイズが乗るんですよねぇ」とか怖い事を言ってたのは、これのせいだったんじゃないかなと今となっては思います。仇は取ってやったぞ ヨーダ!!)。

一方、衛星バス側では、、、

例の強烈なデス・ノイズは、パターン設計・素子の浮遊容量等が原因の根の深いかなり厄介な現象でした。発生原因を突き止めるため、リップルノイズの発生メカニズムを片っ端から勉強していくうちに、もはや、フィルター程度でどうにかできる問題ではないと判断した我々は、素子選定からやり直すことに決め、パターンもゼロから引き直すことに。さらに、どうせここまでやってしまったんだからということで、これまでほとんど議論されておらず何の指針も無かった「衛星の電源制御アルゴリズム」についても検討しシステム設計から洗い直すことにしました。これはなかなかの重労働でしたが、スペース的にも時間的にもぎりぎり収めることが出来ました。この数年の間、出口の全く見えないデバッグ作業をへこたれること無く続けてきた「静かな男」まっつんも喜びを露わに。

闘いの記録
終結宣言
電源システム嵐のデバッグ。(クリックで拡大。軍事転用出来てしまうので素子名等は伏せています) そして、まっつん勝利宣言レポート(この頃からちょっとおかしくなってしまった模様)

2013年の熾烈なノイズ落としで格段に成長したまっつんが、ついにTSUBAMEチームのプロマネに就任。さて後は組み上げて出荷かなという段階になって、災いはまたやって来るわけです。。。⇒ 開発風景Part3へ